第17章 残響のマリオネット
都市とは、横へ広がるだけの物ではない。
地上の密度が限界に達した都市は、たいていその広さを横ではなく縦に広げ始める。
つまりビルを上に積み重ねるか、あるいは地下へスペースを広げる。
「なるほど、地下街ね」
「地上から地下への入り口が多いからよかったですけど、だいぶ遠回りをしてしまいましたね」
地下空間の存在は鉄道綱の充実とイコールであるから、その街が都会であるかどうかのひとつの指標といえるだろう。
札幌駅地下歩行空間は比較的新しく、かつかなり広大な通路で、駅前からすすきのに至るほとんどの主要施設へアクセスできる。
「洒落てるね。地下だってのに天窓がある」
『色んな店があるよ、東京と変わらないな』
「コンビニも本屋もテラスも図書館窓口も、美容師に占い師もいますから。これだけ揃っていれば、"人形師"も揃っているでしょう」
「っつーか最初から地下に潜れば良かったんじゃない?」
「すぐ潜りたかったんですけどね。人の話を聞かずにジャガバター食べ始める人がいて」
「マジか。見つけたら注意しとくよ」
『鏡ならトイレにあるぞ』
「にしてもさぁ……確かに洒落てるよ。展示スペースまであってイベントも開催されてるしパフォーマーもいる。人の活気が地上よりも集まってる。それだけにーーーよくないね」
五条が顔をしかめるのは、それなりの理由がある。
札幌というのは特殊な街である。東京であれば、渋谷、新宿、秋葉原、などなど、その地域は各々の特色があり、人柄によって別々の場所に集中する。シブヤ系、アキバ系、なんて言葉がわかりやすい。ところが、札幌は混沌としている。
若人の集まるショップ街に、マニア向けのアニメグッズ店、古くから続く老舗の商店街、そして大人の欲望渦巻く色町。
これらが道一つ挟む程度の、超近隣に混在している。当然、そこに集まる“念“もまた、混在する。