第17章 残響のマリオネット
普段の五条となまえであれば、七海に聞くまでもなく事件の内容を把握している。それでも敢えて七海に聞くということは、二人が情報を仕入れていない事実の現れである。
つまり五条もなまえも本来、自分たちが出るほどの事件ではないと分かっているわけだ。それでもなお、二人は七海についてきた。二人でバカンスを楽しめばいいものを、ついでとはいえ、この二人にとってはこうしてゆっくりと休みを堪能する時間ですら相当貴重なはずである。
本当にただの暇つぶしで遠路はるばる北国に来るほど、二人は暇人ではないことはわかっている。七海は、せっかくなまえと一緒に過ごせる時間をわざわざ割いてまで自分についてきた五条の目的が知りたかった。とにかく彼に真意を喋らせるには、速やかにこの事件を解決するしかない。
七海は効率から考えて、簡潔に説明することにした。
「事の発端は“黄泉比良坂“と呼ばれているサイトだそうです」
「すごいネーミングセンスだな」
『厨二病拗らせてんなあ』
「検索エンジンからはたどり着けないよう、独立したサーバー内に設けられたサイトのようですね…情報をもとに、伊地知が見つけました」
「アイツは優秀だよ」
『本人に言ってやれよ』
「やだね」
二人のやりとりを聞いて七海は「あ、この人さては伊地知を締め上げて私の行き先を聞いたんだな」と察した。
「で、その悪趣味なサイトはどういう目的のために設置されてるんだ?まさか面白動画が見られるワケでもないんだろ?」
「サイトは簡素なものでしたよ。懐かしくなるくらい」
「アクセスカウンターが置いてあって、キリ番を踏んだら報告しなきゃならない感じ?」
「そういう感じですね」
『うわー、懐かし』
「懐かしさを感じる自分たちが嫌だな」
「歳ですからね、私たちも」
七海の言葉が、3人の胸にひしひしと沈む。哀愁漂った雰囲気を一蹴りするように、七海は続けた。