第17章 残響のマリオネット
「そんなあやふやな可能性のために、わざわざ出向いて来る人じゃないでしょアナタ」
「よき理解者ヅラ、五臓六腑に染み渡るよ。ま、それも半分、僕たちも多忙な日々に疲れて北にバカンスに来たくなったのさ」
「そういうことは夫婦水入らずでやればいいでしょう。わざわざ私に同行するということは、私に何かーー」
「あ、七海。あれ見てあれ」
「人の話を聞いてください。言うだけ無駄でしょうけど」
七海のため息まじりの発言も虚しく。五条の指差した先には、こぢんまりとした屋台があった。看板に赤い文字ででかでかと書かれた「ジャガバター」の文字は、自己主張が激しいことこの上ない。
「考えてみりゃストロングスタイルだよね。ジャガバター屋台。ジャガイモ焼いたやつにバターのっけただけの料理売るんだぜ。ウチで作っても手間かかんないよ。な、なまえ」
『自分では絶対やらないくせに何様だよジャガバター屋台舐めんな』
五条となまえのやりとりを横で聞きながら、七海は本日何度目かわからないため息を肺の奥深くから吐き出した。この昔から変わらない夫婦漫才は、後輩の七海の前では今も健在である。生徒達の前では絶対に見せないのだろうけれど、七海の前では普段から当たり前に繰り広げられているので、わざわざ北海道でも聞く羽目になるなんて、本当にやりきれない。そんなことを思いながら、重たい口を開く。
「石焼き芋だって似たようなもんでしょう」
「言われてみりゃそうだ。流石だな七海。目の付けどころがサングラスの奥」
「ただの眼球の位置情報でしょうそれ」
「ところでジャガイモのジャガって何?」
「ジャカルタ港から日本に輸入されたから、という説があるとか」
「なんで即答できんのオマエ、怖っ」
『逆になんで知らないんだよ自称日本でジャガバター二番目に好きな男が』
「ま、所詮二番目は二番目だよね。ジャガバターには申し訳ないけど、僕のナンバーワンでオンリーワンはなまえだけだから。……っつーわけで大将、ジャガバターいっちょください」
会話中、あまりにも自然な流れで五条が屋台に寄っていったので、七海は少々リアクションが遅れてしまった。