第17章 残響のマリオネット
「ね、なまえあの地図出して」
『はい』
五条に言われるがまま、なまえがジャケットのポケットから取り出したのは、二つ折りになったパンフレット。それを五条が開けば、中央区の地図が、わかりやすく簡略化して記されていて、そこにいくつもの赤丸が書き込まれている。
「なんですか、その地図」
「オイオイオイ七海ィ、オイオイオイ、オイ」
「雑にイラつきますねそれ」
「しっかりしてくれよ。オマエ、ここで取り出すんだから五条悟スイーツマップ以外に何があるってんだよ」
「ですから、そういうのはお二人でどうぞ」
「先輩ヅラし甲斐のない奴だなぁ」
「アナタも昔から、慕い甲斐のない先輩でしたよ」
ため息を吐きすぎて、肺がぺしゃんこになりそうだった。そんな七海の肩を、なまえが申し訳なさそうにぽん、と叩いた。
『七海……悪いな』
「そう思うならこの人をなんとかしてください」
七海の鋭い突っ込みに、なまえは形容し難い渋い顔をして見せた。大方、彼女も無理やり連れてこられたのだろう。昔からの付き合いなので、七海はなまえの根本がちゃんと真面目であることは知っている。五条悟の妻であること以外は、至ってまともな常識人だ。“五条悟を選んだこと“、以外は。そんなことを思いながら、七海は渋い顔をしているなまえに問うた。
「……というか、ほんと、なんでついて来たんです?何人も呪術師が必要な案件じゃないですよ、今回は。ましてーー」
「まして超イケメン最強呪術師の五条悟が出る幕じゃない、だろ?」
間に割って入って来た五条を、七海は無視した。構わず五条は続ける。
「確かに心配ないとは思うよ。単独での調査とはいえ、任されたのがオマエなら一人でもきっちりこなすだろ」
「じゃあなんで来たんです?」
「たぶん心配ない案件を、絶対心配ない案件にするためだよ。一人で十分な案件とはいえ、一級呪術師が出張るようなことなんだろ?それもどうやら悪徳な呪詛師が、その“もどき“絡みだって聞いてるしね」
「……相手も一級か、特級に値する呪詛師かもしれないと?」
「あくまでかもしれない、だけどね」