第17章 残響のマリオネット
ーーーー七海建人は、出張が嫌いではなかった。
経費で落ちる旅行と言えなくもないし、なかなか行けない場所へ赴く理由にもなる。まして北海道なんて尚更だ。
なにより、同僚と離れて一人になる機会というのは、呪術師と言えども、社会人としてはかけがえのないクールダウン、つまりは心の換気だ。適度な息抜きができるかどうかが、労働を長く続けるコツであるーーーそう考えている七海にとって、出張先に先輩呪術師がついて来るというのは、面白くはなかったしーーーそれが五条夫妻となれば、もはや頭の痛い案件ですらあった。
「七海、なまえ、北海道クイズしようぜ」
「お二人でどうぞ」
「はい第一問。僕の一番好きな北海道スイーツはいったいどこの銘菓“三方六“でしょうか?」
「せめてクイズの意味十回調べてから出直してください」
「じゃあジャガバターゲームしようぜ」
『クソつまらなそう』
「右に同意」
「ルールは簡単。よりジャガーバターの好きな奴が勝ち。はい僕の勝ちー僕ジャガーバター日本で二番目に好きな男だから」
「誰ですか一番」
「松山千春」
『呼吸より嘘の回数が多いよねアンタ』
「CO2削減になるだろ?」
「私となまえさんのため息から出るCO2でチャラでしょう。何が悲しくてはるばるやって来た北海道でもアナタ達二人のバカップルぶりを見せつけられなくちゃならないんですか」
「いいじゃん寂しい七海にも幸せのお裾分けということで」
「本当に結構です」
七海と五条となまえの3人は、大通りの賑やかな道を歩いていた。
札幌の街並みは京都と同様、碁盤の目。標識を眺めながら歩けば、まず迷うことはない。地図とも照らし合わせやすいし、歩いての観光ならば中央区に限っては容易である。