第16章 因中有果
『―――誰だオマエ』
殺気立ったなまえの言葉に夏油は驚く様子も見せずに、くすりと笑った。
「はは、忘れたのか?寂しいね。私は君たちの大切な―――」
『オマエは傑じゃない』
ぴしゃりとそう言い切ったなまえは、冷たい瞳のまま続ける。
『傑の身体で、傑の名を、易々と語ってくれるなよ。虫唾が走る』
「随分と冷たいね。昔の君はもう少し優しかったはずだけど。悟とうまくいってないのか?」
『はは、残念だけど、気持ち悪いくらいうまくいってるよ』
「そうか、それはよかった。君達の間に何かあったら、それはそれでこちらが困るからね」
『御託はいいから、オマエ誰だよ。それ以上その身体で傑や悟の名を語るな』
淡々と言いながら、なまえは凍るように冷たい瞳で目の前の人物に続けた。
『たとえここが夢の中の世界だろうと、オマエが呪霊だろうと呪阻師だろうと、こんなに趣味の悪いことをこれ以上続けるつもりならここで消す』
「クク、残念だけど、君には無理だよ」
ほくそ笑む目の前の友の姿をした人物に、なまえはぎりり、と唇を噛み締めた。口内にじんわりと鉄の味が侵食する。
ゆっくりと手をあげ構えようと、した瞬間だった。
「近く、世界が変わる。―――今日はそれを君に教えに来たんだ」
予想もしていなかった言葉に、なまえは思わず手を止めた。
『世界が変わる?』
「今まで保たれていた均衡は呆気なく崩れ、この国は崩壊するだろう。君は随分と己の正義に忠実なようだけれど、残念ながら正義の味方には限界がある。だって君は、正義(それ)を壊す側の運命の元に産まれたのだから」
『……っはは、それが運命だってなら、運命ごとひっくり返してやる。私に与えられた運命を、悟がひっくり返してくれたようにね』
「へえ、それは随分と賑やかな事になりそうだ」
くすくすと不気味な笑みを浮かべる夏油傑の姿をしたそれが、どんどん霞みがかっていく。そんな姿を見つめながら、なまえはぽつりと言った。
『………これは本当に夢か?』
「どうだろうね。ご想像にお任せするよ」
『………』
「―――新しい世界でまた会おう、なまえ」
その言葉を最後に、目の前が真っ暗になった。