第16章 因中有果
―――目の前に広がっているのは、白銀の雪原だった。
霧のように染み透る空間に、なまえはひとり、立っていた。
此処は一体何処なのだろうか。
一歩、二歩、と歩みを進めれば、後ろから、名前を呼ぶ声がした。
「―――久しいね、なまえ」
ひどく懐かしい。今となっては聴こえることの決してない、そして聴こえるはずのない、声。歩みをとめ、その声のほうへとゆっくりと顔を向ける。
『傑―――?』
半信半疑で、今は亡き彼の名を呼べば、そこに立っている―――確かに"夏油傑"が、柔らかく微笑んだ。
『なん、で……』
そう言いかけて、なまえは自嘲するように笑ってから、俯いた。
『……趣味の悪い夢だな』
ぽつり、と小さくそう呟いてから、顔をあげる。目の前にいるのは、確かにあの夏油傑だ。あの頃と変わらない、穏やかな笑みを浮かべて。彼が夢に出てくるのは初めてじゃないけれど、なんだか妙にリアルで、気味の悪い感覚だった。
「どうかな」
くすり、と口の端をあげながらそう言った夏油に少し違和感を覚えて、なまえは問う。
『……その額の傷はなんだ?』
「いずれわかるさ」
この状況を楽しんでいるかのような様子の夏油に、なまえはふう、と一呼吸置くと、口を開いた。