第14章 ある夢想
「そっ。悠仁のことでも分かる通り上層部は呪術界の魔窟。保身馬鹿、世襲馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿、腐ったミカンのバーゲンセール。そんなクソ呪術界をリセットする。上の連中を皆殺しにするのは簡単だ。でもそれじゃ首がすげ替わるだけで変革は起きない。そんなやり方しても誰も付いて来ないしね。昔ある人に言われたんだ、"それならお前が育てればいい"―――当時は何言ってんだと思ったけど、その通りだと思った。だから僕は教育を選んだんだ。強く聡い仲間を育てることを。その人が"僕に似合う"と言ってくれたからね。……そんなわけで自分の任務を生徒に投げることもある。愛のムチ」
「………(それはサボリたいだけでは?)」
「皆優秀だよ。特に三年秤、二年乙骨、彼らは僕やなまえに並ぶ術師になる」
ーーー悠仁も、その一人だった。
ぎゅう、と強く拳を握り締める。そんな五条を横で伊地知が見つめていれば、解剖室の扉が開く音がした。
『ーーごめん、少し遅れた』
解剖室に入ってきたのは、助手ーーーもといなまえに、硝子は小さくため息を吐く。
「夫婦揃って責めるほどでもない遅刻をする癖辞めろよ」
『悟と一緒にしないでよ。今日は事情があったの』
「なまえひどくない?一緒にしないでも何も僕達一心同体でしょ。今伊地知になまえとの甘ーい青春時代と僕の夢を語っていたところだったのに」
『糖分の取りすぎで脳味噌まで溶けたか』
「え、何今日はそういうプレイ?」
五条のふざけた発言を無視して、なまえは解剖台の上に横たわる悠仁をじっと見つめた。つい先日までの眩しい笑顔が嘘だったみたいに、彼の無邪気な瞳は静かに閉じられている。
『………』
無意識にギリリ、と唇を噛み閉めて、口内に血の味がじわりと滲んだ。