第14章 ある夢想
「ーーーわざとでしょ」
高専内、解剖室。
無機質な空間に、いつもの飄々とした声とは違う、五条の鋭い声が響いた。
隣にいた伊地知が、びくりと肩を震わせる。
「…と仰いますと…」
「特級相手。しかも生死不明の5人相手に一年派遣はあり得ない。僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた。面白くない上が僕のいぬ間に特級を利用して体よく彼を始末ってとこだろう。他の二人が死んでも僕に嫌がらせができて一石二鳥とか思ってんじゃない?」
「い、いやしかし…派遣が決まった時点では本当に特級になり得るとは……」
「犯人探しも面倒だ」
震える伊地知の声を、五条の鋭い声が遮る。
「上の連中全員殺してしまおうか?」
「ーーー珍しく感情的だな」
殺気すら孕んだ五条の様子に怯むことなく声を掛けたのは、解剖室に入ってきた家入硝子だ。
「随分とお気に入りだったんだな、彼」
「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」
「あまり伊地知をイジメるな。私達と上の間で苦労してるんだ」
「(もっと言って…!)」
「男の苦労なんて興味ねーっつーの」
「そうか」
「(もっと言って!!)」
伊地知の心の声も虚しく、硝子は手袋越しに解剖台に横たわる虎杖の遺体に被せられた打ち覆いをバサッと引き剥がした。
「で、コレが宿儺の器か」
心臓を見事にくり抜かれた虎杖の遺体を見下ろしながら、硝子が続ける。
「好きに解剖(バラ)していいよね」
「役立てろよ」
「役立てるよ。誰に言ってんの。それで、私の助手は?」
「硝子の助手、じゃなくて僕の妻、ね。直に来るよ」
わざわざそう言い直してから、五条は隣に立っている伊地知に向かって続ける。
「僕はさ、性格悪いんだよね」
「知ってます」
「伊地知後でマジビンタ」
「マ…マジビンタ…?」
「教師なんて柄じゃないそんな僕がなんで高専で教鞭をとっているか。聞いて」
「なんでですか…?」
「夢があるんだ」
「夢…ですか」