第13章 雨後
「―――なんだ。いつにも増して辛気臭いな、恵」
そんな三人の会話をぶった斬るように、真正面から飛んできた鋭い声。
声の方を向けば、そこには高専の制服に身を包んだ生徒が立っていた。
「禪院先輩」
「私を苗字で呼ぶんじゃねえ」
ポニーテールを揺らしながら、眼鏡の奥で鋭い眼光を放つ禪院真希は、伏黒を睨みつけた。
「―――真希!真希!!」
そんな真希の後ろで、名前を呼ぶ声がする。声の主は―――木陰に隠れた真希の同級生であるパンダと狗巻棘だ。
「なんだよ」
「まじで死んでるんですよ昨日!!一年坊が1人!!」
「おかか!!」
そんなパンダと狗巻の言葉に、真希の顔はみるみるうちに青褪めていく。
「は、や、く、い、え、や!!これじゃ私が血も涙もねえ鬼みたいだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
慌てふためく真希に、パンダと狗巻が答える。そんな三人の姿に、野薔薇は顕著に顔を歪めた。
「……何あの人(?)達」
「二年の先輩。禪院先輩、呪具の扱いなら学年一だ。呪言師、狗巻先輩。語彙がおにぎりの具しかない。パンダ先輩。あと一人乙骨先輩って唯一手放しで尊敬できる先輩がいるが今海外」
「アンタ、パンダをパンダで済ませる気か」
淡々と紹介を終えた伏黒に向かって野薔薇が口を尖らせれば、ぎゃあぎゃあと言い合っている二年生達に向かってなまえが口を開いた。
『―――ちょっと。あんた達、仮にも初めてできた後輩の前に初登場だってのに、全然かっこついてないじゃない』
「おかか!!」
「なまえさん、なんで先にそこにいんだよ!一緒に紹介してくれるっつったろ。なんの説明もねーから私が悪者になってんぞ!」
『あらまあ。真希がいつにも増してとげとげしい』
「しゃけ」
「憂太といる時は少し丸くなるのになあ」
「黙ってろパンダ!」
そんな真希達を横目に、野薔薇がなまえを見上げる。
「さっき私らに話があるって言ってたの、まさかこの人達?」
『そっ。ほれほれ、話があるんだろう、かわいい生徒達』
そう言ってなまえは立ち上がると、怒る真希を慰めるように背中をぽんぽんと撫でてから、パンダにくい、と顎で促した。