第13章 雨後
ぽつり、と小さく呟いた野薔薇の問いに、なまえは優しくほほ笑みながらゆっくりと口を開いた。
『野薔薇はどうして呪術師になりたいと思った?』
「田舎が嫌で東京に住みたかったから!!」
「…そんな理由で命懸けられんのかよ」
横からぼそりと呟いた伏黒に、野薔薇は続ける。
「懸けられるわ。私が私であるためだもの」
そういう野薔薇に、いつかの自分と、今はもう居ない"彼"の姿が重なる。なまえはぼうっとそんな事を思いながら、続けた。
『ふふ、野薔薇らしくて素敵だね』
「なまえさんって、学生時代はどんなだったの?」
『そうだなぁ。生意気で扱いづらい生徒だったかな』
「ええ、嘘でしょ。優等生の模範って感じにしか見えないんだけど」
「なまえさんにもコイツみたいな時期があったんですか?」
「コイツみたいな、って何よ」
『ふふ、そうだね。悟や硝子や―――……、はは、あいつらに聞けばよくわかる』
言いかけたなまえの表情が一瞬翳る。野薔薇は不思議に思いながら続けた。
「硝子、って家入医師?"3人"で同期だったの?私達と同じだったのね」
『いいや。―――正しくは"4人"だった』
初夏の空を仰ぎながら、なまえはぽつり、と続けた。
『君たちみたいに、すごく仲が良かったよ。いつも一緒だった。毎度毎度懲りずに私と悟が喧嘩をするから、その度"アイツ"が止めるんだ。随分苦労をかけたよ』
はは、と過去を懐かしみながら優しく笑う。その笑顔からは、なんだかとても温かい匂いがした。けれど、その四人のうちの一人については、なんだか深く聞いてはいけないような気がして。"いつも一緒だった"―――その言葉が、虎杖を失った野薔薇と伏黒の心にきりりと響いた気がした。