第13章 雨後
いかにも初夏らしく澄み渡る空。
生温い風に揺れる木々の緑、葉先に光る陽光。初夏の眩しさをたたえる風景とは些かアンバランスな、真っ黒の制服に身を包んだ二人の少年少女の姿が在った。
「長生きしろよ、って。自分が死んでりゃ世話ないわよ」
初夏の空に投げかけるように、ぽつり、と野薔薇が呟いた。
「……アンタ、仲間が死ぬの初めて?」
野薔薇は一人分ほど距離を取って隣に座っている伏黒に静かに問う。
「同級生は初めてだ」
俯きながらも淡々と答える伏黒に、野薔薇はふいと顔を逸らした。
「……ふーん。その割に平気そうね」
「……。オマエもな」
「当然でしょ。会って二週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚くほどチョロい女じゃないのよ」
自分に言い聞かせるかのようにその言葉を紡いだ野薔薇の唇は、僅かに震えている。
―――先の少年院での虎杖悠仁の"死"は、二人の心に深く爪痕を残していた。
そんな空気を取っ払うかのように、瞬間、二人の肩にふわりと手が乗せられる。二人が同時に振り返れば、いつの間にいたのか、そこには普段着の上に白衣を羽織ったなまえの姿が在った。
「……なまえさん。解剖室行ったんじゃなかったんすか」
『その前にちょっと、ね。そうそう、恵と野薔薇に話がある奴らが直に此処に来るから』
「私らに話?誰よ?」
『来てからのお楽しみ、ということで』
そう言ってへにゃりと笑ったなまえは、二人の頭をよしよしと撫でた。
「……いつまでも子供扱い辞めてください」
「何照れてんのよ、嬉しいくせに。ムッツリなんだから」
「うるせえ」
ほんのり頬を染める伏黒を揶揄うように野薔薇が言えば、伏黒はふいとそっぽを向いてしまった。そんな二人の様子を交互に見てから、なまえは腰をかけ空を仰ぐ。
穏やかな、けれどもぽつりと穴が空いたような、そんな空気に包まれながら三人で肩を並べていれば、野薔薇が口を開いた。
「ねえ、なまえさん」
『ん?』
「呪術師やってると、こうして仲間が死ぬ事に―――いつか慣れてしまう日がくるのかな」