第1章 もしも運命があるのなら
駄々を捏ねるみかを宥めるように、なまえが続く。
『大丈夫、安全な所で待ってて?必ず迎えに行くから』
なまえの言葉に、みかは唇をきゅ、と噛み締めると、小さく呟いた。
「……そう言って、パパとママは迎えに来てくれなかった」
『………』
しゅん、と悲しそうに俯くみかにじんじんと心が痛む。まるで、かつての自分を見ているようで。きっと何かしらの事情があるのだろうけれど、ひたすらに家族を一人で待っていた、この小さく震える手を振り切ることなんてなまえには出来るはずがなかった。
『…わかった。約束したもんね、お父さんとお母さんの所までお姉ちゃんが手繋いでるって』
なまえの言葉に、みかは嬉しそうに微笑み大きく頷いた。
そんな二人を横目に、五条はボソッと呟く。
「…とんだ甘ちゃんだね。呪術師向いてないよ、オマエ」
五条の言葉に、なまえは手を繋いでいない方の手でみかの頭を撫でながら小声で続けた。
『…向いていようが向いていまいが私は呪術師だ。この世に蔓延る呪いを祓って、"ホントの意味"で人を助ける』
「……エラそーにそんな偽善臭い信念掲げて、潰れてった呪術師だって少なくないよ。俺達術師は神様じゃない。助けを待ってる人達全員に手を差し伸べてたら、それこそこっちがもたない。時には切り捨てなくちゃならない事もある。その間引きができねー術師は”死ぬ”」
『………わかってるよ、”痛いほど”ね。でも私は、私にできること全部やって、助けを待っている人たちを守って、助けたいの。そう決めたから、高専に来た。この子は今、私に助けを求めてくれてる。それに寄り添わない理由なんてない』
「オ"エー、反吐が出る程偽善臭いね」
舌を出して小馬鹿にするように言う五条に、なまえは何かを思い出すように静かに問うた。
『…アンタさ、人が人を助けられない理由ってなんだと思う?』