第1章 もしも運命があるのなら
『―――おい、何ボケっとしてんだ役立たず』
眩しい笑顔からは一転。憎たらしい顔でこちらを睨みつけるなまえに、先程まで目を奪われていたことを全力で後悔した五条は顕著に口元を歪ませた。
「…誰が役立たずだって?」
『アンタ以外に誰がいんだよ』
「寝言は寝て言えよ」
瞬間、バチュン、と音がして、五条の周りから呪霊の気配が消し飛んだ。先程なまえが祓った呪霊の後を追うように集まってきた呪霊達が、五条によって瞬時に祓われていく。それはもう一瞬の出来事で、瞬きすらできない。なまえは大きく目を見開いて、目の前で繰り返される圧倒的な力をただただ見つめていた。
「ハイ、俺の勝ちね」
『………は、勝ちって』
「俺の方が多く祓っただろ?だから俺の勝ち」
『はぁ?いつから数の勝負になった訳?』
「勝負の基本でしょ。てことでオマエ後で罰ゲーム決定」
『~~っクソ腹立つ!!』
なまえは恨めしげに小さくそう呟いてから、すぐに気持ちを切り替えるように手を繋いでいるみかに笑顔で向き直る。
『それじゃあみかちゃん。お姉ちゃんと二人でお父さんとお母さんの所に帰ろっか』
「…うん!あのお兄ちゃんはいいの?」
『え、誰のことかなぁ?アレは知らない人だよ』
「そうなの?」
『そうそう、あしながおじさんっていう妖精さんだよ』
「ようせいさん?」
「ふざけてんなよ」
『妖精さんの声が聞こえるなあ』
真顔で突っ込む五条を無視して、なまえはみかと手を繋ぎながら病室を出る。
まだ油断は出来ない。呪いに拐われた患者は後二人。病院内に感じる呪霊の気配はまだ完全には消えていないし、帳は降りたままだ。夏油と硝子のペアがあとの二人を救出できていればいいのだが。大学病院なだけあって、いかんせん規模が広い。
「とりあえずそのガキんちょ帳の外に出してからでしょ」
珍しくまともな五条の言葉に頷けば、みかはぎゅっと手を握り返した。
「ヤダ!わたし、お姉ちゃんと一緒がいい!」