第11章 始まりの青
『悠仁、先生なんて堅苦しく呼ばなくていいよ。それにしても、君が噂の』
言いながら、なまえはじーっと虎杖の顔を見つめる。
―――宿儺の器。
聞いていた通り、見た目は普通の男の子だ。まさかこの少年が、あの特級呪物両面宿儺の指を食べたとは。聞いたときは、思わずスマホを落としそうになったほど驚いた、が。いざこうして目の前にしてみれば、本当に、普通の高校生の男の子だ。
「なまえさん、距離近いです」
『ああ、ごめんごめん』
恵がむっとした表情でそういえば、なまえは慌てて虎杖から顔を離しながら笑った。
『今年の1年生も豊作みたいだね。これはあいつの夢想が叶う日も遠くないな』
「?なんのことっすか?」
不思議そうに問う虎杖に、なまえはなんでもないよとごまかすように言えば、野薔薇が口を開いた。
「なまえさんってもしかして、御三家の方?」
『うーん、生まれも血筋も違うんだけど。まぁ、今は御三家の人間ということにはなるね』
「やっぱりね。苗字がややこしいってことはそうだと思った。てことは、才能大好き禪院家ってところかしら」
『はは、それも惜しい』
ええー、とブーイングする野薔薇が可愛くて、なまえはからかうようにくすくすと微笑んだ。そんななまえを横目に、恵はぼそっと続けた。
「後々嫌でも思い知らされるんだからわざわざ聞く事ねぇよ」
ふてぶてしくそう言った恵に、虎杖がハテナを浮かべていれば。
なまえの首の後ろから、長い両手が巻きついてきた。
ぎゅ、と後ろから抱き寄せられて、なまえはその真後ろにいる人物に呆れたように言った。
『生徒の前ですよ、"五条先生"』