第1章 もしも運命があるのなら
なまえがそっと伸ばした手を、少女は震える手で掴んだ。よろよろと出てきた少女を抱きしめ、なまえは小さく術式を展開した。
みるみるうちに少女の呼吸が正され、呪いによって抉れていた傷が塞がっていく。
―――反転術式。
呪力は負の力。肉体の強化は出来ても再生する事は出来ない。だから負の力同士を掛け合わせて正の力を生む。それが反転術式。
非常に高度な術式であるため、高専でも反転術式を扱える人間はかなり貴重であり、他人の傷を治せるとなれば尚更である。唯一反転術式を扱える硝子ですら、その成功例にはムラがあるのに。それを簡単にやってみせたなまえに、五条は眉を顰めた。
「…マジか」
『よーし、痛いの痛いの飛んでけ!』
「すごい、お姉ちゃん、ほんとに痛いの飛んでいったよ!!」
『でしょぉ?もうこれで大丈夫』
「ありがとお、お姉ちゃん!」
そう言う少女、みかの小さな頭を愛おしそうに撫でると、なまえは、優しく笑った。
『うん、一人でよく頑張ったね』
暗くて、薄気味悪い闇の中。
それは、そんな黒い闇すら照らしてしまえそうな、眩しい光のような笑顔だった。