第10章 きみの呪いが解けるまで
『……あー…えっと、悟、ついに頭沸いた?』
「失礼だな。それが一世一代の渾身のプロポーズに対する答えかよ」
『プロポーズ…?今のが?』
「それ以外ないだろ。オマエこそ頭沸いてんじゃない」
『いやだってプロポーズってこう…もっとロマンチックな…』
「これでも色々セリフ考えたんだよ。でもどれもしっくり来なかった。こういうほうが俺らしくていいだろ、シンプルで。ロマンチックな部分は、この庶民的な夜景で許してよ」
『………』
―――確かに。
回りくどい言い方も、ロマンチックなセリフも。彼にはあんまり似合わないかもしれない。そんなことを想像して、思わず吹き出した。
『ぷっ…確かに』
「ほら、早くこれ受け取ってこれにサインして」
『は?』
言いながら五条は、続けてポケットから四つ折りにされた紙を取り出した。折り畳まれていた紙を丁寧に開けば、それは、新婦の名前だけ空欄の婚姻届だった。
『婚姻届……?嘘でしょ』
「時計見て、0時回ったろ。俺もう18になったから」
『いや、私まだ返事もしてないんだけど!?まだちゃんとおめでとうも言ってない…!!プレゼントだって』
「これが最高のプレゼントだよ。ずっと俺が欲しかったもの」
そう言って五条は、紺色の箱を開ける。彼の瞳に負けず劣らず美しいダイヤモンドが彩る指輪が、きらきらと輝いていた。
「知ってる?この指輪、ループバイっていうの。ループ即ち繰り返し。無限に続く。無限の愛。俺にピッタリだろ」
へらへらと笑いながらそんな台詞を言った五条は、未だ戸惑っているなまえの手を取って、左手の薬指にそっと嵌める。