第10章 きみの呪いが解けるまで
「ホントはもっと早く連れてきてやりたかったんだけどね。尽くオマエがデートのお誘いを断り続けるからさ。今日は無理矢理連れてきてみた」
『別に断ってないもん。休みに出掛けるなら四人で出掛けようって言ってただけじゃん』
「それを断ってるっつーんだよ」
『そうなの?…じゃあごめん』
「謝られると余計に傷付くからやめてくんない?」
『悟も傷付いたりするんだ』
「オマエ俺をなんだと思ってるの」
『鋼のメンタルって硝子が言ってたよ』
「あー言ってたね。まぁあの日は結果なまえの気持ちを聞き出してくれたから良しとする」
『……え、待って何、あの日ってまさかアンタこの前の会話聞いてたの!?』
「まぁね」
なまえは瞬時に青褪めて、あの日の会話を思い出す。事細かには思い出せないけれど、五条にだけは聞かれたくないようなことばかりの内容だということだけはしっかりと覚えている。唖然としているなまえに、五条は平然と続ける。
「アレ聞いてさ、どうしたら俺の本気が伝わるかって色々考えたんだよね。で、その結果、」
五条は言いながら、ごそごそとポケットから小さな紺色の箱をなまえの前に差し出した。
「俺の全部をオマエにあげるから、オマエの全部を俺に頂戴」
五条の言葉に、なまえは思わず目を見開いた。
紺色の箱に金色の文字で刻まれている文字は、ウエディングジュエリーのハイブランドの名前だ。箱のサイズから、何が入っているのかなんて、鈍感ななまえにもすぐわかった。
『え、何、アンタ意味わかって言ってんの…?』
「勿論。これが冗談に聞こえる?」
『…聞こえなくもない。悟が言うと全部胡散臭い』
「酷いな。俺はいつだって本気だよ、オマエに対しては」
『…へえ…それは気づかなかった』
「気付けよいい加減。何年俺を待たせるつもりだよ」
『…別に待たせてるつもりはないけど』
「じゃあもういい?」
『なにが?』
「―――結婚しよ。」
五条の口から出たその言葉に、なまえは瞬きすら忘れてしまった。
白くて長い睫毛に囲まれた、青い瞳に射抜かれる。
月明かりに反射したその宝石のような瞳は、真っ直ぐになまえだけを映していた。