第10章 きみの呪いが解けるまで
『ちょ、何すんだよ!?』
「ここからは着いてからのお楽しみ」
『はあ!?放せよ鬱陶しい!』
「だーめー」
五条にはいくら抵抗しようと無駄なので、なまえは真っ暗で何も見えない状態のまま大人しくしていた。それから数十分ほど経って、ようやく車が止まる。
『ねぇ、もういいでしょ?着いたんでしょ!?』
「俺がいいって言うまで目開けちゃダメだよ」
『なんで』
「なんでも」
『………』
渋々頷いたなまえに、五条はそっとなまえの目元から両手を離した。
なまえは言われた通り目を瞑ったまま、五条に手を引かれながら車の外に出る。
凍るように冷たい風が頬を撫でた。マフラーを巻いてもらってよかったな、と思いながら、ゆっくり前を歩く五条の手に引っ張られて、目を瞑ったままなまえは言った。
『ねぇ、まだ?』
「よし、もーいーよ」
そう言って急に立ち止まった五条の背中に、こつん、と顔が当たった。もー、と文句をぶー垂れながらもゆっくりと目を開けてみれば、そこに広がるのは、光り輝く美しい夜景だった。
『………うそ』
「さてここはどこでしょう」
きょろきょろと辺りを見渡して、目の前に広がる夜景をもう一度見つめる。間違えるわけもない、テレビや雑誌で見たことのある、ずっと見てみたかった景色だ。
『お台場海浜公園!?』
「セーカイ」
五条はそう言ってにっと笑った。
―――"「オマエが知らない世界、これ以外にもまだまだたくさんあると思うよ」"
―――"『だね。私はちっぽけな世界に住んでたんだなぁ』"
―――"「これから見てけばいいじゃん全部。見たいものとかねぇの?」"
―――"『えー、そうだなぁ。お台場の夜景とか?見てみたいなぁ』"
―――"「うわー、庶民的」"
―――"『うっさいよ』"
いつか五条と交わした会話の記憶が蘇る。
目の前に広がるきらきらと輝く夜景を見つめながら、なまえはぽつりと口を開いた。
『……覚えててくれたんだ』