第1章 「嫌だって、言ったのに」【我妻善逸】
そんな私を満足気に見下ろす彼はつん、と再び指先で私の唇に触れて口を開いた。
「ふふ…、紅が伸びてるとさ」
「…うん?」
「接吻、した後みたいでしょ?」
善逸は艶っぽい声色で〝接吻〟を強調した。
「せっ………!!!」
「あれぇ、想像してなかった?目瞑ったから期待してるかと思ったのに、接吻」
「な、な……!!」
嗚呼、私の顔、きっと茹でダコみたいになってるんだろうなあ。
顔も体も温泉に入ったかのように熱いし、善逸が触れているところはいっとう熱い。
心臓の音がうるさすぎて耳のすぐ近くでどくどくと鳴っているのではないかと思うほどだ。
途端に、今の体制が耐えきれなくなって「離して…!」と訴えれば善逸は楽しそうに笑うだけだった。
「…、泣きそうだよ?」
「泣くよ…こんなの!だって私、こんな善逸知らないもん…!」
「こんな善逸…ねぇ…?」
するりと首を伝って髪にまで伸びた善逸の指が簪を抜き取った。
ぱさりと肩に降りる髪にますますわけが分からなくなって、次は何をされるのか、言われるのか。
恥ずかしさのあまり目頭が熱くなった。
「これもさぁ、宇髄さんに選んで貰ったんだって?」
「そ、そうだけど…善逸の瞳の…色みたいだなぁって…」
「それで…?」
「見せたらちょっとは女の子扱いしてくれるかなぁ、って思って付けてただけで、そんな…怒らないでよぉ…」
泣き出しそうな私を見ても顔色1つ変えず、淡々とした瞳で見つめてくる善逸が怖くて、私はとうとう泣き出した。
「……あぁ、もう泣かないで。
ごめんって、意地悪しすぎたからさぁ」
「じゃあ離してよ…!恥ずかしいの…!」
「ん~、それはどうしようかなぁ…」
ぽろぽろと零れ落ちる涙を優しく拭われていると、不意に瞼に善逸の唇が落とされた。
「…ぜ…!?」
「あのねぇ、」
「………ん、うん…?」
反対の瞼にも音をたてて善逸の唇が触れた。
恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないのに、あまりに優しい触れ方に不思議と嫌な感じはしなかった。