第1章 「嫌だって、言ったのに」【我妻善逸】
「ぜ、善逸…?」
すぱん!と勢いよく閉められた障子。
ずりずりと壁伝いに座らされた私はあっけなく、思っていたよりもずっと逞しい善逸の両腕によって壁に縫い付けられていた。
…………え?
別に意識していたわけじゃないし、特別な感情を抱いていたわけでも無い。
それでも、見たことのない顔をして、その黄金色の双眼に宿る怪しい光を見てしまえば私の頬はいやでも熱くなるし、心臓の音はうるさく鳴り始めるのだ。
脚の間に割って入ってくるように近付いてきた善逸の吐息が首にかかって身を捩る。
どうしよう、どうしようもなく、恥ずかしい。
こんな善逸知らない、こんな男の人の顔をしている善逸なんて見たことがない。
「あのさぁ…?」
「は、はいっ…」
いつも聞く上擦った高音なんかよりずっとずっと低い声で名前を呼ばれて、今度は私が上擦った返事をした。緊張で心臓がまろびでそうだ。
「俺、嫌だって言ったよね?」
「…紅…?」
「それもそうだし、簪も。
なんで宇髄さんに選ばしちゃうかなぁ…」
「か、買ってやるから付けとけって…」
「……そういう事じゃなくてねぇ…」
はぁ、とそれはそれは深ーい溜め息を善逸が付く。
びくりと震える私を見て少しだけ口角を上げた彼のごつごつとした手が頬に触れた。
え…?まさか、え?
流石に私でもここから想像出来る展開は1つだけでさらに顔が熱くなるのが分かった。
嘘でしょう?え、嘘すぎでしょ?
怪しく目を細めた善逸の指が私の唇に触れた。
「…むっ!?」
まさか接吻…、なんて思って目を固く閉じた瞬間。
善逸の指が唇なぞって頬まで伸びた。
「……はぁ…ほんとに可愛い…」
「…え、善逸……?」
紅が伸ばされたということくらいしか分からず、恍惚とした表情で私を見つめる善逸の意図が読めなくて首を傾げた。