第1章 「嫌だって、言ったのに」【我妻善逸】
「あ、善逸」
「……………えっ、……?」
「うん、久しぶり」
任務終わり。
藤の家の廊下を歩いていると目の前に見慣れた後ろ姿があった。
久しぶりだなあ、なんて思って声を掛けると、振り返った善逸が目を見開いて私を見た。
「お前、それ…」
「あ、紅?ごめんね宇髄さんに選んで貰った」
「簪も…?」
「えへへ、買って貰ったの。
髪結い始めたんだけど、どう?」
最近は余裕があるときだけでも少しだけ頑張って簪を使うようにし始めたのだ。
宇髄さんに買ってもらったのに使わないというのも失礼な話だろうし。
高い位置でふんわりと団子状に纏めあげた髪を見て欲しくて、得意げになってくるりとまわってみせた瞬間、
「…っ…善逸?」
いつの間にか正面には善逸がいて、物凄く不機嫌な顔で私の腕を掴んで強く引き寄せられた。
予想もしていなかった事態にぽかんとする私を他所に、そのまま近くにあった障子を開けた善逸は、まるで連れ込むように私をくいっと室内へ引き入れられた。