第1章 「嫌だって、言ったのに」【我妻善逸】
「……………!?」
「ん?ああ、善逸。おはよう、居たんだね」
少しは女らしくしてみよう、なんていう好奇心で紅を差し始めてからおよそ1週間。
宿泊していた藤の家、朝日を浴びるため部屋の外に出ていると、横からめちゃくちゃ震えた声が聞こえた。
まあ声のうるささで誰かはなんとなく想像ついてたけど。
寝起きで髪がぼさぼさの善逸が私の顔をわなわなと震えながら指さして、なんとも言えない顔をしていた。
え?化け物とか鬼見た反応の顔だよねそれ?なに?どういう感情??
炭治郎さん、私はとうとう善逸にとって男扱いから化け物扱いにまで降格したのでしょうか。
「……私の顔に文句ある?」
微妙な顔のまま何も言わない善逸に痺れをきらして、少しむすっとしながらそう聞くと、あからさまに動揺した善逸が「いやっ、べつにぃ!?」と、何も別にぃ?じゃない反応をした。
じとっと睨みつける私から逃れるように、さっ、と指を降ろせば後ろ手に組んで気持ち悪く体をうねらせて微妙な顔のまま私から目を逸らした。
「…あ、あのさぁ…」
「うん」
「く、くち…」
「口…?あ…」
「何付けてんだよ…」
善逸に言われて気が付いた。
確かに昨日は任務を終えたのがひどく遅い時間だったから、藤の家についた途端流れ込むように布団に入りそのまま寝たような気がする。
つまり、昨日差した紅を落としていないのである。
「やば、忘れてた」
「やばって何!?」
「え、いや取るの忘れてたなぁって」
「ていうかお前なんなの!?前までそんなの興味なさそうだったじゃんかぁ!」
落とそうと手の甲で唇を拭うと、逆に伸びてしまったようで紅が頬の方に付く感じがした。早く顔洗わなきゃなあ。
ふと、ぎゃんぎゃん騒いでいた善逸がぴたりと吠えるのを止めた。不思議に思って見上げると顔を真っ赤にして金魚みたいに口をはくはくさせていた。
え。
目の前の光景が信じられなくて固まる私をよそに善逸は真っ赤な顔のまま「お、お前紅…!」なんて呟いている。
え、善逸単純すぎない?
「へぇ、こういうの付けたら女に見え始めちゃった?」
見たことの無い反応が面白くてにまにまと緩む口を隠さないまま揶揄ってやれば善逸は耳まで真っ赤にした。