第2章 「弟では、ないですね」【竈門炭治郎】
だって。
炭治郎くんは私にとって弟のような存在で、かわいくて、頑張り屋さんな、守ってあげたくなるような、言うなれば保護対象のような男の子で。
__〝男の子〟なのだ。
一度たりとも〝男〟だなんて思ったことは、ないのだ。
それがどうだろう、今の炭治郎くんははたして男の子だろうか?
男の子というには些か、色っぽすぎはしないだろうか。
「…さん」
こんな、吐息を含んだ声で私のことを呼んだことが過去に一度でもあっただろうか?
愛おしくて堪らないとでもいうような、密っぽい瞳を向けてきたことがあっただろうか?
年の割に男らしいその腕で私を離さなかったことはあっただろうか?
ああ、待って、考えられない、考えがまとまらない。頭の使いすぎで熱を出しそうだ。
よもやすると、
私がずっと少年のように思っていたこの男は、
ずっと私のことを______
「さん…?
困ってる匂いと…期待してる匂いが……い゛っ!?」
スコーン!!
気持ち良いくらい良い音が響き渡る。
「お、お風呂は不純異性行為をする場所じゃないと、わわわ私は思います…………!!!」
…私が炭治郎くんをぶん殴った音だ。
大人気なくも、桶で思いっきり。そりゃあもう全力で。
石頭の彼の頭に桶がぶつかる音は予想通り良い音である。
…ゴメンナサイ。
「…………先に上がるからごゆっくり!!!」
「…ま、待ってください!さん!?…うぶぅっ!?」
一瞬緩んだ腕の間を潜り抜け、逃がさないと手を伸ばした炭治郎くんの手を弾き飛ばしこれまた大人気なく温泉の中へと沈めた。
………ゴメンナサイ。加減を間違えました。
でも振り返ったりしないよ!ゴメンナサイ!!!
バタバタと風呂場を出て、用意されていた着物を適当に羽織る。
はやく!はやく!!
炭治郎くんが出てくる前に!!
ろくに帯をしめないで、ドタドタと濡れたまま飛び出せば、藤の家の方が驚いたように「鬼狩り様!?」と叫んでいた。
「良いお湯でしたぁああ!!!」
スパン!!!
勢いよく襖をしめて、ずるずると崩れ落ちる。
炭治郎くんは、いつから、あんな〝男の人〟になってしまっていたのだろうか。