第2章 「弟では、ないですね」【竈門炭治郎】
「…緊張してる匂いがします」
「…だって…炭治郎くんに、あたってるし…」
「…う゛ッ …。そ、そうです…ね…」
何が、とは言わないが当たってます。
そりゃそうだ。抱きしめられたら隠すも何も無い。
炭治郎くんだって、恥ずかしそうに口ごもった。
いや、恥ずかしいならやめようよ…。
「ねぇ、炭治郎くんどうした…の…」
おずおずと見上れば、真紅に染まった炭治郎くんと目が合う。
その瞳が、吃驚するくらいの熱をもっていて、私は思わず息を呑んだ。
「…………甘えていいって、さんが言ったんですよ」
「い、言った…けど…」
言ったは言ったけどかなり意味合いが違う。
私は頭を撫でるとか褒めてあげるとか、百歩譲って一緒に寝るとか、その程度の可愛らしい触れ合いを想像していたわけであり、まさかこんな色男も吃驚な展開に持ち込まれるとは思ってもみなかった。
ぱちぱちと瞳を瞬かせる。
炭治郎くんは熱に浮かされた眼差しで、私の名前を零すように呼んだ。
「…な、なに…?」
「若い男女が風呂場に2人…この意味…分かりますよね…?
…それに、さんだって本気で逃げようとしないじゃないですか」
言葉を失う。
言いかけた言葉は湯気と一緒に空気に消えてしまったのようだ。
炭治郎くんの口からそんな台詞が、出てくるなんて。
たしかに何の下心も無くこんなことをするとは流石に思えなくなってはいたけども。
それでもやっぱり仕返しのつもりだったとか、思春期の延長線でちょっとやってしまったと、そういう可能性をまだ残していたのに。
「炭治郎くん…!?そ、そういうことは…まだ…!」
「……俺は!!!!」
炭治郎くんが声を荒らげた。
風呂場に彼の声が響く。
急な大声にびくり、肩が跳ねる。
逸らさせない。
そう言わんばかりの彼の双眼からは逃げられなくてじっと次の言葉を待つ。
炭治郎くんはすぅっと息を吸い、意を決したように口を開けた。
「………1人の男です!!」
ひゅっ、と冷たい息が喉を通り抜けた。
互いの顔の火照りは暑さのせいか、それともこの甘ったるい雰囲気のせいか。