第2章 「弟では、ないですね」【竈門炭治郎】
冷気に当てられ、はっきりしてきた意識の中。
はた、と。冷静になる。
目の前のたいそう立派な胸板に目が移る。
あれ?今の体制はつまり、手拭いで身体を隠してはいるけど、一糸纏わぬ姿で炭治郎くんに支えられているということで?
「…どうかしましたか?」
「……い、いや…」
もしかしなくても、とても恥ずかしい状況なのではなかろうか。
前髪が目に掛かるたびにうざったそうにかき揚げる色っぽい動作も、逞しい身体も、私を片手で支える腕力も、
とてもじゃないが〝弟〟だなんて思えるものではなかった。
…我ながら情けない。弟同然の年下の男の子にどきまぎさせられるなんて。
「…炭治郎くん、ありがとう。私もう大丈夫」
「そうですか、良かったです」
「うん。ありが………うん??」
「はい?」
今日の炭治郎くんはどこか可笑しくなってしまったのだろうか。
それとも逆上せて頭がまわっていないだけか。
離されると思っていた私を支えていた腕が、私から離れることはなく。
「(もうあがるから)大丈夫」という意味で言ったはずなのに何故か彼の腕はいまだ私の肩をひしと抱きとめ離れる素振りは少しも見せない。
私が言葉足らずだったのだろうか。
相変わらずまん丸の目を不安げに揺らして「なにか、ありましたか…?」と問う彼の様子に他意は感じ取れないのである。
「ううん、なんともないんだけど…。
私もう出るから離してくれて大丈夫だよ!」
やましい気持ちを抱くのは彼に失礼っていうものだ。
私もなんてことない笑顔で「ありがとう!」と言う。そうすれば自然と炭治郎くんも「はい!」なんて言って人の良い笑顔で離してくれるだろう。
________その、はずだった。
「…ごめんなさい ッ !俺は、離しません…!」
「………………え…!?」
むん!!
意思が強そうな顔をして、炭治郎くんは私を力いっぱい抱き寄せ、そのままぼちゃん!!と水飛沫をたててお湯の中へ逆戻りをした。