第2章 「弟では、ないですね」【竈門炭治郎】
「はぁ…落ち着く…」
軽く身体を流して、ほかほかと湯気がたつ温泉に浸かる。誰もいない貸切温泉。
足を伸ばしても、少し泳いだりしても誰も咎める人はいない。
「ふふっ…」
私だけの温泉でちゃぷちゃぷと足を伸ばして、ゆっくりと温泉を堪能していた。
炭治郎くんも向こうのお風呂でゆっくり休めているだろうか。それとも私が揶揄いすぎて怒っているだろうか。
ぼおっとする頭でそんなことを考えていたとき、
ぴと。
と首に冷たい何かが触れたのだ。
「………………ひぃい!?」
あまりの不意打ち。突然すぎる不意打ち。
ていうか音しなかったよね!?
ばしゃばしゃ!と桶で温泉のお湯を背後に撒き散らして逃げようとすると、ぱし、の肩を捕まれ体が強ばった。
「な…何…!?」
意を決して振り返った私の目に映った人影。
湯気が晴れていく中で見えた顔は安心すると同時にあまりに衝撃的な人だった。
「………ふ、はは!俺ですよ、炭治郎です」
「……た…炭治郎くん!?」
「ふふ、驚かすつもりはあったんですけど、まさかあんなに上手くいくとは思っていませんでした。
さんずいぶん油断してたんですね?」
くすくすと笑いながら濡れた前髪をかきあげる姿は見慣れた炭治郎くんからは程遠く、なんだか大人っぽくてどきっと心臓が高鳴った。
…て、いやいやいや!
後輩相手に何を私は。不純だよ、不純!!
「…て、なんでいるの炭治郎くん!?」
「え?なんでってなんでですか?」
「え!?」
聞き分けの良い、素直で良い子な炭治郎くんはどこに消えてしまったのだろう。
それとも年相応に悪戯をして、質問に質問で返すようなひねくれたことをするのが彼の本性だとでも言うのだろうか。
きょとん、と曇りなき瞳で「何かおかしなことしましたか…?」と聞いてくる炭治郎くんに訳が分からなくなりそうだ。
「え、いやだってここは女湯で…。
あれ?ここって混浴か何かだっけ…?」
「いいえ?」
「……??」
ますます訳が分からない。
疑問符で埋め尽くされた頭を全力で回転させるとあるひとつの可能性が浮かび上がってきた。
こんなに熱いお湯に入っているのに背中がやけに冷たい。
「まさか、まさか…?」
「はい。さんが一緒に入ろうって誘ってきたじゃないですか」
にっこり、彼は笑った。