第6章 恋の方程式
「なーなーなまえちゃんはどれが欲しい!?」
「夜久さんずるいっす!姫の欲しいものは俺が取るっす!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
いつものように言い合う夜久と山本を宥めるように海がまぁまぁと間に割って入る。
がやがやと騒がしいゲームセンターが、音駒メンバーのおかげで一層騒がしくなっている。
『うーん……ポッキーもいいけどブラックサンダーも捨てがたい……』
クレープ片手にユーフォ―キャッチャーを見つめながら考え込むなまえに、黒尾が言った。
「おまえあれカロリーの塊だぞ。いつものダイエットどーした」
『もういいの!だって失恋――むぐ』
言いかけた言葉を遮るように、黒尾は咄嗟に右手でなまえの口を塞いだ。
「ばっかお前アイツらの前でその事言うなっつったろ!?」
『~~!!ごめん!!』
なまえが失恋した、なんて聞いた日には、過保護な夜久と山本がどうなるかなんて考えるだけで吐き気がしてくる。黒尾はうんざりした顔で、なまえに耳打ちしてみせた。
「それに何回も言ってんだろ、あれは失恋って言わねぇの」
『もう、そういう慰めはいいから。こちとら開き直り始めてんだからさぁ』
ふてくされたような顔でクレープ(黒尾の奢り)をもしゃもしゃと食べるなまえに、黒尾ははあ、とため息を吐いた。赤葦との一件が、相当彼女に精神的なダメージを与えたようで。どうやらあんなに頑張っていたダイエットも、もうどうでもよくなったらしい。クレープの前はタピオカ(夜久の奢り)を飲んでいたし、その前はソフトクリーム(山本の奢り)を食べていた。
「つーかお前なんでそんなマイナス思考なの?腹立つわぁ」
『……好きな人がいるって、なんか、直接聞いちゃうとさ。やっぱ、ショックだったよね』
それはお前のことなんだぞ、と言いたい気持ちを飲みこんだところで、左手に持っていたスマホが鳴った。先ほどからずっと連絡を取り合っている相手からのLINEに、黒尾はにやりと口角をあげる。