第5章 cross in love
ぐいぐいとその輪の中に割って入ったかと思えば、木兎は満面の笑顔でなまえに向かって肉の塊が乗った皿を差し出している。とてもじゃないけれど女子の食べれる量ではない。盛りすぎて肉が零れ落ちてしまいそうだ。どこからあんな量の肉をかき集めてきたんだか。
当のなまえは、あろうことか笑顔でその皿を受け取った。普段全然食べないあの彼女が、だ。その光景をぼけっと眺めていれば、続々と黒尾や日向、そしてリエーフやらが集まってきて、なにやらわちゃわちゃと楽しそうだ。
「おい、赤葦!俺たちもあの輪の中に入ろうぜ!」
「今がチャンスだろ!木兎もいるし!」
「え」
先輩二人にぐいぐいと腕を引っ張られて、彼女のいる輪の中へと近づいていく。それにいち早く気付いた黒尾が、にやりと微笑んでからこちらに向かって口を開いた。
「おー、赤葦!お前もちゃんと食ってるか!」
「…あ、はい」
気を利かせてくれたのであろう黒尾の言葉に赤葦がそう頷けば、なまえの肩がぴくりと揺れた。
そんななまえの背中を、黒尾がばしばしと叩く。
「おいどーした!箸がとまってんぞ!今日はめっちゃ食うんじゃねーのかぁ?」
『う、うるさいな!ほっといてよ』
「なまえちゃんが珍しくすげー食ってる!!なぁなぁ、もっと持ってくる!?盛ってくる!?」
「おい木兎テメェ!俺たちの肉まで盗みやがって!」
いつもの如く始まった木兎と黒尾の言い合いを聞きながら、ふと、赤葦がなまえに視線を向ければ。ふい、と露骨に逸らされてしまった。
「………」
「おいっ、赤葦早く!話し掛けろよっ!」
耳元でそう囁く木葉に、赤葦はしばらく黙ってから、小さく口を開く。
「……すみません。今俺と話したくないっぽいです」
「え?」
「どゆ意味?」
首を傾げる木葉と小見を背に、くるりと赤葦は踵を返す。
「ちょ、赤葦何処行くんだよ!?」
「すんません、ちょっとトイレ行ってきます」
「あ、おい――」
二人の叫びも虚しく、赤葦はすたすたとその場を離れて行ってしまった。
そんな彼の背中を見た黒尾の「あちゃー」という小さな声は、喧噪に消えた。