第5章 cross in love
なんてめんどくさい奴らなんだ、という本音はそっと飲みこんで、黒尾は続ける。
「けどさ、元気づけてやるって約束したよな?それは実行してくれるんだよな?」
「はい。みょうじを元気づけることと、俺の失恋とはまた別の話ですから」
至極当然のように言う赤葦に、それが別じゃねえんだよ、と、黒尾は心の中で盛大にツッコミをいれていれば。赤葦が続けた。
「昨日、身に染みてわかりました。女心とか全く分からない俺じゃ力不足だなって。だから、黒尾さん。みょうじが喜ぶこと、教えてもらえませんか?前に、ハンドクリームを頂いたんです。ずっと何かお礼がしたかったんですが、思いつかなくて。それも兼ねて」
こんなに饒舌な赤葦は初めて見た、と驚きながらも、黒尾は思いついたように口を開いた。
「あ、じゃあどっか遊びに連れて行ってやれよ!遊園地とか、食事とか!な?」
「え、俺がですか?」
「いや、お前以外に誰がいんだよ」
「……。そういう場所は、好きな人と行かなきゃ楽しくないのでは?」
「………」
――言葉が出ない。
けれど、ここでへこたれてちゃいけない。なんたって、大切な幼馴染の初恋が懸かっているのだから。
「…いや、でもさ。お前、あいつを元気づけてくれるって頼まれてくれたんだよな?」
「はい。それでみょうじが元気になってくれるなら、喜んでやりますけど。でも、それじゃ俺ばかりいい思いしてる気がしますが」
「いいんだよ!あいつ甘いもの好きだし、パンケーキ屋とか連れてったら喜ぶと思うぜー!な?とりあえず頻繁に連絡取り合って、休み合わせてさ!な、頼んだぞ」
「え、あの」
黒尾は有無を言わさずとでもいうように、赤葦の肩にぽん、と手を置いて、さっさと去って行ってしまった。
遠くなる黒尾の背中をぼけっと見つめていれば、ふと、横から声が掛かる。
「なぁ赤葦ー!今日こそみょうじちゃんと会話させてくれよ!」
「そうだぞ赤葦!お前と木兎ばっかりずるいぞ!俺達梟谷学園グループのマドンナを二人占めしやがって!」
声を掛けてきたのは、梟谷学園三年生の小見と木葉だ。