第5章 cross in love
ぎくり、と思わず顔が歪む。
――昨日の夜。
クロに赤葦のことでちくちく言われて落ち込んだ私は、前の日に赤葦が連れてきてくれた屋上に行って。一人しんみりしていたところに、何故だか赤葦がやってきて。そして。クロの助言通り勇気を出して好きな人がいるのかと問えば、すんなり”いる”(しかも片思いをしているらしい)と答えた想い人に、見事失恋したのだ。その後、逃げるように赤葦の前から立ち去って、誰もいない教室でひとしきり泣いて。夜中、みんなが寝静まる頃を見計らって教室に戻って、寝ようと布団に入ったけれど、全く寝つけなくて・・・今に至る。そんなこと、まさか正直に言えるわけがない。
『……あー、昨日はクロと今後の事について話し込んでしまって…』
「え、黒尾と?」
「あれ~?」
白福と雀田が、不思議そうに顔を見合わせた。
『…どうかしました?』
「赤葦来なかった?」
『ゥえっ』
まさかその名前がここで出るなんて思わなくて、変な声が出た。
「赤葦、昨日なまえちゃんのこと探しててさぁ~」
「わざわざ女マネの教室まで訪ねてきたんだよ。あの赤葦が!」
二人の言葉に、思わず目を見開く。
――赤葦が。私を探していた?
『……えっと、何の用で来たんですか?』
「なんかぁ、セットアップについて聞きたいことが~とかごまかしてたけど、絶対違ったよね~」
「ねー!だから二人の関係を問い詰めようって気合いいれて起きてたのになまえちゃん全然帰ってこないからさぁ」
『す、すいません!』
思わず頭を下げて、先輩にも、赤葦にも、申し訳ないことをしたな、と心の中で盛大に後悔した。自分の話ばかりした挙句、彼の聞きたかった事に答えるどころか、自分の都合で逃げるようにその場を去ってしまったのだから。