第5章 cross in love
ピリリ、と聞き慣れたアラーム音が耳を掠める。
一睡もできなかった重たい身体を起こして、なまえは枕元で鳴り響くスマートフォンを止めた。暗くなった画面にうつった自分の顔に思わず顔を歪めて、周りを起こさないようにそっと立ち上がり、女子トイレへと走った。
ぱしゃぱしゃと音を立てて顔を洗ってから、タオルでぽんぽんと優しく叩く様に拭く。改めて鏡に自分の顔を映してみれば、うっすらクマが浮かんでいる程度で、これくらいならコンシーラーでも叩いておけば何も問題はない。一晩中声を殺して泣いていたせいで寝起きはひどい顔だったけれど、顔を洗えばなんとかマシになった。
―――”「……まあ、片想いだけど」”
昨晩の赤葦の言葉を思い出して、また瞳の奥が熱くなる。彼が片思いをしている女の子は、一体どんな女の子なんだろう、だとか、赤葦に想われてるのに振り向かないなんて、だとか、飽きもせずにまた同じような事が頭のなかをぐるぐると駆け巡る。それを振り払うように、思い切り頭を左右に振って、ぱちん、と両頬を叩いた。
今日は夏合宿の最終日だ。そんな大事な日に、音駒唯一のマネージャーである自分がげんなりしているわけにはいかない。
気合いを入れ直すように、もう一度冷たい水で顔を洗っていれば、後ろから声がした。
「なまえちゃ~ん!おはよ~」
「今日は早いねー!おはよ!」
慌てて顔を吹いてから振りかえれば、そこにいたのは白福と雀田だった。なまえは慌てて顔を吹き、咄嗟に笑顔を向ける。
『白福さん、雀田さん、おはようございま――』
「ねぇねぇ」
挨拶を言い終える前に、二人は両脇からにやにや顔で近づいてきた。
「昨日の夜、誰と何してたのかなぁ~?」