第4章 交錯する想い
コンコン、と簡素なノックの音が薄暗い廊下に響く。
しばらくして教室の扉から顔を出したのは、梟谷のマネージャーである白福だった。
「あれ~、赤葦~?珍し~」
「うわ、ホントだ」
驚いたようにいう白福に続いて、同じく梟谷のマネージャーである雀田が後ろから顔を出した。此処は、女子マネージャーが寝泊まりしている教室だ。何度も遠征や合宿は経験してきたけれど、こうして女子マネの部屋を訪ねるなんて赤葦にとっては初めての事だった。
「どしたの~?なんかあった~?」
「赤葦が来るとか、ただ事じゃない予感」
ざわついてる白福と雀田に、赤葦は無表情のまま口を開いた。
「みょうじいますか?」
「「え?」」
「音駒の、マネージャーの」
いやいや、言われなくてもわかるけども。そこじゃねえ、と突っ込みたい気持ちを抑える雀田を余所に、白福は答えた。
「なまえちゃんなら~、まだ戻ってきてないケド」
「…そうですか。ありがとうございました」
おやすみなさい、と淡々と言って踵を返そうとする赤葦のジャージの裾を、白福がすかさず掴む。
「え、なになにぃ~?赤葦がぁ、なまえちゃんに何の用~?」
にやにやと口元を緩ませる白福に、赤葦は無表情のまま続けた。
「いえ、先ほどの自主練の時のセットアップのタイミングについて少し聞きたい事があっただけですので」
「えぇ~、ホントにそれだけぇ~?」
「それだけです。ありがとうございました。おやすみなさい」
ぴしゃりとそう遮ってから、赤葦はくるりと背を向けてすたすたと廊下を歩いて行ってしまった。
「……怪しい」
「だよね~、かおりもそう思う?」
「あの二人、絶対なんかある!」
「あたしもそー思ってた!後でなまえちゃんが戻ってきたら聞こ~!」
にやにやと楽しげにそう話す雀田と白福を背に、赤葦は早足で階段を駆け下りた。