第4章 交錯する想い
―――中学二年の都大会。
クロに無理矢理男バレのマネージャーにさせられてから約半年、初めての公式戦の会場だった。
結果は惜しくも一回戦敗退という形に終わり、せっかくなので残りの試合を観戦していこう、とクロと研磨と観客席で試合を眺めていたときだった。
ふと、杜中の2番に目が留まる。
遠目からでもわかる、しなやかな動きに、冷静沈着な判断、仲間を信頼した強気で正確なプレースタイル・・・それは元セッターだった自分が、まさに憧れていたセッター像だった。
黒い癖毛の髪がふわりと揺れて、ちらりと横顔が見えた。涼しげな目元が特徴的な端正な顔立ちは、遠くからでもはっきりとわかる。
そんな彼から目が離せなくなって、気付けば視線は彼を追っていて。
『…あのひと、超かっこいい』
気付けばそう口に出していた。我に返ってから慌てて隣のクロを見れば、やはりにやにやした顔でこちらを見ていて。
「何、誰に熱い視線送ってんの~?さてはあの2番か?」
クロの言葉に、どきりと心臓が音を立てた気がした。こいつは、昔からやたらと勘が鋭いのだ。
「お、図星~!ぶひゃひゃひゃ」
『っうるさい!』
そんなやり取りを横目に、研磨が都大会の冊子を見ながら口を開く。
「…あかあしけいじ…だって、あの2番」
『えっ!』
「変わった名前だね。赤葦って。覚えやすいじゃん」
『だから研磨まで何っ!』
「しかも、2年で俺たちと同い年。よかったね」
『もーなんなの!』
必死にごまかそうと否定したけれど。
本当は頭のなかに、その名前と顔はしっかり記憶されていて。
「んじゃ、そろそろ帰るぞ~」
クロの掛け声に頷いてから、帰り際、コートにもう一度視線をやれば。
彼はチームメイトに向けて、さわやかに笑ったところで。
その笑顔が自分に向けられればいいのに、なんてらしくもない事を思った自分に驚きながら、クロと研磨の背中を追いかけた。