第4章 交錯する想い
それもどうかと思うが、と突っ込むのは心の中だけにして、今はとにかく油断すればすぐに緩んでしまいそうな表情筋に力をいれるのに必死だった。だって、まさか。彼女が一度でも自分を”かっこいい”と言ってくれたなんて。口から出たでまかせかもしれないし、その場のノリとかかもしれないけれど、たとえそれがどんな理由だろうと、好きな人が自分を褒めてくれたというその事実が、嬉しくて仕方がない。
『――クロ、赤葦。さっきから二人でこそこそ何話してんの?』
「!?」
月島たちとの会話を終えたのか、食器を片したなまえから再び降りかかってきた声に、赤葦の肩と心臓がびくりと跳ねる。
「お前には言えない秘密のお話~」
黒尾の答えに”なにそれ!?”と叫ぶなまえ。
「ま、そーゆーことだから、赤葦。頑張れよ」
そういって黒尾はぽん、と赤葦の肩に手を置いて、食べ終えた食事をそそくさと片付け食堂を出ていってしまった。
『………』
無言の視線を感じる。おそらく黒尾の言った”お前には言えない秘密のお話”が気になっているのだろう。随分と余計なことを言い残してくれたものだ。
その視線に気づかないふりをして、赤葦はお皿に残っていた食事をもぐもぐと口に運ぶ。
「………」
『………』
「………」
『……あの』
だんまりを決め込んでいれば、なまえが話しかけてきた。
「…なんですか」
『…えっと…』
どこかもじもじしているように見えるのは、気のせいだろうか。
「どうかした?」
『あ、いや…えっと……クロと、何話してたのかなぁ…って』
言えるか、という言葉をごはんと一緒に飲み込んで、赤葦は口を開く。
「別に、大した話じゃないよ」
と、ごまかした。