第4章 交錯する想い
黒尾がぽんぽんと肩を叩けば、弱々しく赤葦の肩は揺れた。
からかいすぎた、と黒尾は少し反省して、咳払いを一つ。
「ま、ツッキーは宮城だし、高校生の遠距離なんて考えらんねーだろ!」
「…どうですかね。宮城なんて遠いうちに入らないですよ」
やっちまった――また、自分の悪い癖が出てしまった。つい先日もからかったつもりで月島を傷つけてなまえに怒られたばかりなのに。純粋すぎる赤葦をからかうのが面白くて、ついやりすぎてしまったようだ。
黒尾は心の中でちょっぴり反省して、ここぞという時のために取っておいた数々のネタ(?)の一つを赤葦に話してやろう、と決意する。
「なぁ、赤葦よ」
「なんですか」
「この黒尾さんがお前にいいことをひとつ教えてやる」
「いえ、結構です」
どうせろくなもんじゃない、という赤葦に、黒尾はニィっと白い歯を見せて笑った。
「それがそうでもないかもよ?」
その直後、黒尾の口から出た言葉に、赤葦は目を見開いた。
「――おまえがなまえを知るずっと前から、なまえはおまえを知ってたんだぜ」
死んだ魚のような目をしていた赤葦の瞳に、一瞬生気が戻る。
「…そういえば、去年初めて会った時そんなような事を」
「中学ん時、試合の会場がたまたまおまえら杜中と同じでさ。お前らの試合、俺ら見てたんだよね。そん時、なまえ、なんて言ったと思う?」
黒尾の言葉に、初めて会った時のなまえの言葉を思い出した。
――”杜中でしたよね?中学のとき、たまたま試合見たことがあって”
「…あ。…で、なんて言ったんですか?」
「”あの人、超かっこいい”って」
黒尾の言葉に、赤葦はぼっと顔が赤くなったのを感じた。
「ぶひゃひゃひゃ」
黒尾の不愉快な笑い声も、もう全く気にならない。
――みょうじが。俺を。かっこいい・・・?
「…それ本当ですか黒尾さん。からかってるんなら許さないですよ」
「おーコワ!本当だって。俺はからかうことはするけどこういうことで嘘はつかねぇの!」