第4章 交錯する想い
『もう蛍くんも自主練仲間なんだから、入らなきゃダメだよ!』
「はぁ。…じゃ、あとでさっき言ってた音楽のアプリ送っておきますね。あ、ワンオク聞くんならマイファスとかも好きなんじゃないですか」
『え、すき!超すき!蛍くんわかるの!?』
「はい、いつも聞いてます」
『やば!何が一番すきー?』
「そうですね、~~トカ~~ですかね」
どうやら今度は好きなアーティストの話で盛り上がっているようだ。赤葦は無意識にそんな二人を見つめていれば、黒尾から視線を感じる。
「あーあ、まーた先越された」
そういう黒尾がなんだか楽しそうに見えるのは、気のせいだろうか。いや、気のせいじゃないと思う。
「…楽しんでるでしょう、黒尾さん」
「まぁね~」
「…はあ」
なんだか赤葦は、一気に食欲がなくなってしまった。
「でも安心しろ!俺はお前を応援してるんだぜ」
「…どのへんがですか」
「幼馴染の応援ほど頼もしいもんねーだろ?」
「まぁ…本当ならとてもありがたいですけど」
確かに、思い返せば黒尾には感謝する節が多々ある。連絡先を交換するように仕向けてくれたのも、昨晩も機転を利かせて二人きりにしてくれたのも、彼のおかげだ。
「赤葦、お前さ、今まで安心してたんだろ」
黒尾に確信をつかれて、どきりとする。
なまえはあの容姿だし、どこに行ったって注目の的なのは一目瞭然だ。しかし、どうにも高嶺の花すぎて、むやみやたらに男が近づいてこれないのだ。現にこの梟谷グループでも、彼女と気安く話せる男子は音駒の部員と木兎と赤葦くらいしかいなかった。あそこまでかけ離れていると、”好き”というより”憧れ”という感情に傾いてしまうからだ。
だから、きっとどこかで、安心していたのだと思う。
「……それは…正直あるかもしれません」
「うんうんわかるよ~。迂闊にアイツに近寄れる勇者なんて早々いねぇしな。なまえに近寄ろうとする男がいようもんなら山本とか夜久が尽く排除するしな~。でもまさかな~ツッキーの登場は、予想外だったわ。このままとんとん拍子で、付き合っちゃったりして」
からかうようにそう言ってにやにやしながら、黒尾は隣の赤葦を見る。恨めしい顔でこちらを睨んでいるのかと思いきや、なんだか本気で落ち込んでいるようだ。
「……おいおい、冗談だって」