第4章 交錯する想い
「おいなまえー!今グループ招待したから入っとけ」
少し離れたところでスクイズボトルを作っているみょうじに、黒尾さんが声を掛ける。『はーい』という返事が聞こえて、俺は心の中で盛大にガッツポーズをした。
「赤葦、おまえのIDおしえて」
「あ、はい」
嬉しい気持ちを必死に抑えて、スマホを出して、黒尾さんにIDを教えれば。何故か黒尾さんはにやにやと妖しい笑みを浮かべていて。
「…ま、頑張れよ」
と一言。
―――・・・
そうか。
あの時の「頑張れよ」というのは、こういうことだったのか。
思い出しながら赤葦は、一人納得した。
「………」
そんな赤葦を見ながら、黒尾は引き攣った顔をしている。
「…なんですか」
「その様子じゃしてねぇんだろ?」
その通りである。
グループLINEをすることになったのはいいが、予想通り木兎のスタンプラッシュで埋まって行ったそのトークルームは、今となっては木兎個人のツイッターと化している。
なまえの連絡先を知れたのはしぬほど嬉しかったけれど、勝手に友達リストに追加するのもなんだか恐れ多くて、それすらしていない状況だった。
女子と連絡を取るなんて普段から全くしないのだ。かろうじて梟谷の女マネくらいで、内容も部活の業務連絡のみである。
女子に連絡先を聞かれることは多々あったが、面倒で追加すらしていなかったり、LINEがきてもとりあえず既読をつけて、余程重要な話でなければ返すことすらなかった。
そんなことを繰り返していれば、女子から連絡先を聞かれることも今ではほとんどなくなった。だって、無駄な連絡を取り合う必要性が全く感じられない。面倒臭いし。
――しかし、相手がなまえとなれば話は全くもって"別"である。
木兎のように朝から晩まで意味不明なスタンプを送られようが、それが彼女からならば大変嬉しいだろう。彼女からLINEが来ようものなら、たとえどんなに眠くたって忙しくたって疲れていたって、自分から会話を終わらせるなんて野暮なことはしないだろう。きっと、何より優先して返事をするだろう。