第4章 交錯する想い
最後の自主練を終えた一同は、わいわいと賑やかな食堂で、最後の夕食を囲んでいた。
「チビちゃん、すげえ量だな」
日向のお茶碗にもりもりに盛られた白米に、黒尾は驚きの声を漏らす。
「それだけ食べても栄養が成長に回らないとかどうなってんの…」
月島が言えば、ぶひゃひゃと黒尾が笑う。
「ツッキーももっと食えよー」
「いえ、僕はそんなに大食いじゃないので」
『蛍くん、もっと食べたほうがいいよ』
「あなたにだけは言われたくないです」
『私だって本気出せばこれくらい余裕だし』
「本気って…プッ…じゃあ本気見せてくださいよ今」
『うわあ、蛍くんがイジワルする』
もうすっかり仲良くなった様子のなまえと月島に、向かいの黒尾はにやにやと楽しそうに笑っているし、隣の赤葦は張り付けられたような無表情を決め込んでいる。
わいわいと笑い合うなまえと月島の会話に空気の読めない木兎が加わったところで、黒尾は赤葦の隣に移動して、耳元で囁いた。
「おい赤葦ィ。おまえ、モタモタしてると取られちゃうかもよ?」
黒尾の言葉に、赤葦は無表情のまま答えた。
「…何がですか、黒尾さん」
「またまた~。はぐらかしたって無駄だぜ?」
「……はあ。ほっといてくださいよ」
「昨日せっかく俺がチャンスを作ってやったってのに。なんの進展もなしとはね~」
痛いところをつかれて、赤葦は何も言い返せない様子だ。それに畳み掛けるように黒尾が続ける。
「ツッキーなんてたった1週間でもう名前で呼び合う仲なのに?赤葦クンは1年半経ってもそこにたどり着いてもいません」
「………」
黒尾に、彼女が好きだと伝えた事は一度もない。しかしこの物言いからするにこの人は、1年の時から赤葦がなまえを好きなことを知っているようだ。自分はそんなにわかりやすいのだろうか、と不安になるが、ひとまずそんなことはどうでもよくて。
「別に名前で呼び合うことがすべてじゃないですから」
「何、強がり?」
「………」
どうもこの人のこういうところは苦手だ、と赤葦は思う。なんだかすべてを見透かされているようで、ごまかしが通用しない。木兎とは大違いというか、正反対である。
「お前さ、連絡とか取りあってんの?」
「え」
「LINE教えてやっただろ、このまえ」