第3章 幻覚ヒーロー
『…赤葦っていつも私が困ってるときに偶然現れるから、ヒーローなのかなぁって思ってる』
それはいつもあんたを探してるから、と喉まで出かけた言葉を飲み込み、赤葦は口を開く。
「…じゃあ、そうなのかも」
『あはは、うん、そうに違いない!』
楽しそうに笑う彼女の横顔を、赤葦はちらりと見る。
星の光が彼女の白い肌を一層際立たせていて、普段より更に綺麗だ、と感じた。
『虫よけスプレーのガス抜きに苦戦してるときとかさ、ゴミ袋が重くて苦戦してるときも!お化けが怖くてトイレに行けないときも。あ、洗い物が多すぎたときも手伝ってくれた』
この一年での二人の思い出を、ぽつりぽつりと思い出しながら彼女は話す。合宿や練習試合の時にしか顔を合わせることはないし、思い出なんて数えられるほどしかないけれど。どれも赤葦にとっては、忘れられない大切な思い出だった。
けれど、それは、なまえにとっても同じだったようだ。
「洗い物手伝ったとき、みょうじがくれたハンドクリーム、あれずっと使ってるよ」
『え!うそ!?』
「ほんと」
そういって、赤葦はジャージのポケットに手を入れた。