第3章 幻覚ヒーロー
階段をいくつか昇って、たどり着いたのは屋上だった。
扉を開ければ、生ぬるい夜風が二人の髪を揺らした。
そして、二人の視界に映ったのは、都会では滅多に拝めないような綺麗な星空だった。
『うわあ…』
埼玉の外れというだけで、こんなにも星が綺麗に見えるらしい。
空を見上げている彼女を見やれば、とても嬉しそうにしている。彼女と二人きりになれるのなら別に場所はどこでもよかったのだが、ふと思いついた場所が屋上だったのだ。ツイてるな、と赤葦は心の中で思った。
『すごいね…綺麗!!』
「…そうだね」
『赤葦すごい!!今日星が綺麗に見えること知ってて連れてきてくれたの!?』
彼女のなかでいろいろと美化されているようだが「まぁ」とだけ言っておいた。我ながらずるいと思うが、初めてできた好きな女の子の前でかっこつけることくらい、許してほしい。
『…なんか、赤葦とこうして二人で話すの久しぶりじゃない?』
「そうだね。いつも木兎さんと黒尾さんがいるしね」
『だよね!去年よく合宿中とか遠征中にたまたま遭遇してさ、こーやって二人で話してたよね』
言いながら星を見ているなまえにつられて、赤葦も空を見上げた。田舎の星空ほどではないのだろうが、東京の真ん中で生まれ育った二人にとっては、十分に綺麗に見えた。