第3章 幻覚ヒーロー
「――おやおやー?」
急に掛かった声に、二人は驚き振り返る。
そこには、黒尾と赤葦が立っていて。
「こんな時間に、二人で何してるのかな~?」
にやにやしながら黒尾が言う。隣の赤葦からは、突き刺さるような視線を感じた。
『あれ、クロと赤葦じゃん!主将会議終わったの?木兎さんはー?』
黒尾のひやかしには慣れっこなのか、華麗にスルーを決め込んだなまえ。
「木兎のやつはまだトランプに夢中だったから置いてきた。ババ抜きなんてよくやるよな、ほんと」
呆れたように言う黒尾だが、先ほどまで一番白熱していた(負けが続いてむかついて抜け出してきた)。
「んで、肝心なお二人さんは何してんの?」
『私がバレーをやめるまでのつまんない愚痴話に付き合ってもらってただけ』
「ふーん?」
黒尾はにやにやしながら月島を見ている。月島はなんだか自分の気持ちを見透かされているようで罰が悪くなり、ふいと視線を反らした。
『ていうか、もうこんな時間なんだね。ごめんね、月島君!付き合わせて』
「いえ、もとはと言えば僕が聞いたことなんで。こちらこそスイマセン」
そんななか、黒尾が口を挟む。
「で、ツッキー。なまえのことは知れたかい?」
「…だからツッキーっていうのやめてください」
『あ、私もツッキーって呼んでいい!?』
きらきらとした顔でいうなまえに、月島は一喝。
「嫌です」
『え、なんで!木兎さんとクロはよくてなんで私はだめなの!』
いや、木兎さんと黒尾さんにもいいと言った覚えは微塵もないのだが、と月島は心の中で盛大に突っ込んだ。
「…とにかく、”なまえサン”からツッキーって言われるのは嫌です」
『そっかぁ…仲良くなれた気がしてたんだけどなぁ』
言いながらしょぼんとするなまえに、月島は口を開いた。
「…別に、ツッキーって言われるのが嫌なだけなんで。名前とかのがマシです」
その言葉に、黒尾と赤葦の二人は思わず目を見開いた。
『あ!なら、ツッキーじゃなくて、蛍くん?』
「……じゃあそれで」
月島がそういえば、「ひゅう!」という黒尾のひやかしが廊下に小さく響いた。