第3章 幻覚ヒーロー
『私さ、小さい頃からクロと研磨とずっと一緒にいたから、他に友達とかいなくてさ。でもね、小4の時初めて女の子の友達ができて。同じバレーチームに入ってきた子だったんだけど、すごく気が合ってすぐに仲良くなってさ。でもね、6年生のときに、その子だけレギュラー落ちしちゃったの。すごく上手い5年生が入ってきてさ。それで、最後の大会の決勝でね、その子と一緒に優勝したいからその子を試合にどうしても出してほしいって監督に頼んだの。無理だって言われたんだけど、最終セットに出してくれてさ。1-1で、最終セット迎えて、デュースの時に。エースの子と、親友が、私のトスを呼んだの。明らかにエースの子の方がいい位置にいた。誰もがエースにトスを上げるのが正解だと信じて疑わなかった。でも、私、エースの子じゃなくて、親友にトスをあげたの。その一瞬で私は、彼女に情をかけた。大切な大切な、最後の一球で。結局その子のスパイクは、アウトにおわって。流れは一気に向こう。私のせいで、結局うちのチームは負けてさ。親友に華を持たせてあげることもできず、チームを勝ちに導くこともできなくて。試合が終わったあと、その子に言われたの。”エースにトスをあげていたら、負けることなんてなかったのに。あなたのせいだ”って。その通りだって思った』
むせ返るような辛い話に胸が痛くなり月島は、ぽつぽつと言葉を紡ぐなまえの横顔をちらりと見やった。不謹慎にも、その横顔がとても綺麗だな、なんて見惚れてしまう。
「………」
『それ以来、バレーやるのが、怖くなっちゃってさ。もう、誰にトスをあげればいいのかわかんなくなっちゃった。チームメイトからは勿論ブーイング食らって、ベストセッターの記念写真もね、ほんとはチームの子たちも写ってくれるものなんだけど、誰も来てくれなくて。だから、写真はいらないですって言ったんだけど、その試合見に来てたクロと研磨が飛び出してきてさ。俺たちが写るんで撮ってくださいって。恥ずかしかったけど、泣くほど嬉しかった。今でもその写真は、宝物なんだ』
言いながら、嬉しそうに笑う彼女から、月島は目が離せなかった。