第3章 幻覚ヒーロー
なんだか気まずそうな顔のなまえを見て、月島は大体察した。こみあげてくる笑いを隠そうともせず、からかうように問うてみる。
「…ぷっ…。苦手ナンデスカー?」
『え…。いや、うーん、ちょっとうるさいだけで、悪い人ではないよね』
「あはは、フォローになってないですケド」
ケラケラと笑う月島に、なまえは焦って話を逸らした。
『及川くんの話は置いといて!えっと何の話してたっけー…』
「みょうじサンが、ベストセッターだった、って話です」
『あ、そう!及川くんとは比べものにならないって話!』
「そうは思わないですけど…」
『ていうか、みょうじさんなんて堅苦しく呼ばなくていいよ、名前で!自主練仲間なんだし』
「………」
赤らむ頬をごまかすように、月島は、疑問に思っていたことを問いかけた。
「……なんでバレーやめたんですか?」
その問いに、なまえは眉を下げながら笑った。
『すごーくしょうもない理由だよ』
「…それでも聞きたいです」
言ってから、月島は自分に驚いた。まさか自分にも、他人のことを”知りたい”と思う日がくるなんて、と。
気付けば二人は歩くのをやめ、廊下の窓から拭く生ぬるい夜風に当たりながら、話し込んでいた。