第3章 幻覚ヒーロー
シャワーを浴び終えた月島が教室へ戻ろうと歩みを進めていれば、後ろから声が掛かる。
『あ、月島君』
振り向かずともわかるようになってしまったそのなまえの声に、月島はゆっくりと振り返る。
「…どうも」
『教室戻るとこ?』
「ハイ」
『私もー』
そういってとたとたと月島の隣まで駆け寄りながら、彼女はにこにこと笑っている。思わず緩んでしまいそうな顔をごまかすように、月島は彼女からふいと視線を反らしてすたすたと歩みを進めた。
『合宿どう?疲れるでしょー』
「そうですね…だいぶ」
『だよね、烏野は長期合宿初めてだから余計にだよね。ごめんね、自主練誘ったりしちゃって』
「…いえ。学ぶことも多いんで、助かってます」
『本当?よかった!でも、月島君、明からに初日より上達してるよね』
「そうですか?」
『うんうん!ずっと見てる私が言うんだから間違いない!』
”ずっと見てる”という言葉に、心臓が跳ねた気がした。自分が期待しているような意味でないのはわかっているのだけれど、それでも嬉しくて。
「…どうも」
『フクロウチームに、負けないようにがんばろっ!』
「はい」
意気込むなまえが可愛くて、月島の表情筋はつい緩んでしまう。それをごまかすように、月島は口を開いた。
「…トス、すごく打ちやすかったです」
『え、本当?大丈夫だった?よかった~~』
「ハイ。小6まで、バレーやってたんですね」
『うん、そうそう!クロから聞いた?小学校まではバレーボール一筋で、髪の毛もこーんな短かったんだよ』
言いながらジェスチャーで、今は長い髪を首の辺りでふしゃっとまとめて見せた。きっと、ショートヘアも似合うのだろうな、と月島は心の中で思った。
「ベストセッター、取ったとか」
『うわ、あいつまた余計なこと言ってる~…小学校のときのだし、全然そんな大したものじゃないからね!!月島君たち宮城県のベストセッター取った及川くんなんかとかとは、比べものになんないから!』
なまえの口から出てきた名前に、月島は少し驚いた。
「あの人のこと知ってるんですか?」
『うん、月バリとかにもたまに出てるしね』
「ああ、なるほど。てっきり知り合いとかだと」
『あー…うん、まぁ…』