第3章 幻覚ヒーロー
「まぁ、そういうことだな。小6最後の大会できっぱりバレーやめたのよ、アイツ。んで、中学あがってきた瞬間、俺が無理矢理マネージャーにさせたって訳。今でも上手いのは、ま、才能と…あとは毎日俺と研磨の練習に付き合ってもらってたからだろーよ。中学のときだって、男バレ内になまえより上手いセッターなんていなかったしな、うひゃひゃ」
言いながら黒尾は、当時を思い出しながら楽しそうに笑っている。”無理矢理”マネージャーにさせたなんて、いかにもこの人がやりそうなことだと月島は思った。気になることはいくつかあるが、自分のいないところでそう過去にずかずかと他人に足を踏み入れられるのも気分の良いものではない。月島は聞きたい気持ちを、そっと心の奥にしまった。
「気になってんだろ、ツッキー」
にやにやしながら小突いてくる黒尾に、月島は顔を顰めた。
「…別にそういうんじゃないです。ただそんな才能があるのにと疑問に思っただけですから」
「ふーん?そ?気になるなら直接聞いてみれば?」
そういった黒尾から顔を反らせば、無表情の赤葦とばっちり目が合った。少しだけ目つきが鋭いのは、おそらく気のせいではないだろうと月島は思いながら、その場から逃げるようにシャワー室へと足を進めた。