第1章 きみを見つけた日
『クロー!頼まれてた資料、持ってきたよ!』
”バレー部(男)”とちぐはぐに貼られたテープが特徴的な部室の扉を開け、なまえはそこに立っているクロこと黒尾鉄朗に声を掛けた。
バレー部主将であり、なまえと研磨の幼馴染である黒尾は、今日も寝癖のついた独特な髪型をしている。
「お、さんきゅ。さすが仕事が早ェな」
黒尾はにっと白い歯を出し笑いながら、なまえから資料を受け取った。
「「なまえさん、おはようございます!!」」
横から聞こえてくる一年の犬岡走と芝山優生の元気で大きな挨拶に、なまえは笑顔で「おはよ、犬岡、芝山!」と返せば、二人は嬉しそうに頬を紅く染める。そして、部室の扉が再び開き顔を出したのは、三年の夜久衛輔、二年の山本猛虎と福永招平だ。
『やっくん、虎、福ちゃん、おはよ!』
「お。なまえちゃん、はよ!」
嬉しそうににかっと笑いながら答える夜久と、恍惚とした表情でなまえに見とれている山本。そんな山本を横目に呆れている福永。
「姫…今日も女神のようにお美しい…」
『うん今日もありがと、山本』
終始うっとりとしながらなまえを見つめる山本と、それをさわやかに受け流すなまえのやり取りはもうお馴染みである。
同い年なのに敬語が抜けないどころか”姫”なんて呼び方をする山本は、彼女を崇拝しているからなのだとか。
「今日は、烏野も来るんだろー?楽しみだなっ。なまえちゃんは、烏野との試合見るの初めてだもんな!」
夜久が練習着に着替えながら、なまえの方を見やる。
『うん!この前行けなかったから、楽しみです!すごいんでしょ?一年コンビの速攻!』
宮城にある烏野高校――五年前までは音駒と親交があり、”名勝!猫vs烏、ゴミ捨て場の決戦”などと呼ばれる程の仲だったらしい。けれど両監督の引退と共に関わりはなくなってしまっていたんだとか。しかし、烏野高校バレー部現顧問の武田先生に頼みこまれ、先日のゴールデンウィークに行われた宮城遠征で音駒は、烏野高校と練習試合を一度交えたのだが、なまえは体調不良のため、参加できなかったのである。