第2章 太陽と月の出
「そんな細いのに、倒れちゃいますよ」
『全然、細くないよ!私、油断するとすぐ太るし』
そういってなまえは眉を八の字にさげながら笑う。
「そーそ。こいつ、すぐ太んの」
『クロうっさい!』
「本当は超大食いなんだぜ。一人でピザのLサイズとかデカいホールケーキとか平気で食うから」
『だからうっさいってば!』
一人でピザのLサイズを食べることにも驚きだが、この量で我慢できることのほうが驚きである。これが、女子の宿命というやつなのだろうか、と月島は思う。
「…女性って大変ですね」
『ウン。体系維持がね、結構大変かな』
努力なくしてこの体系を保っているわけではないのか、と月島は妙に感心しながらなまえをじっと見つめた。確かに同じ高校の女子たちと比べても、一回り小顔で華奢だ。何より、随分と整った顔立ちをしている。こんな美人が近くにいたら、他の女子たちをまともに見れなくなってしまいそうだ。幼馴染である黒尾と研磨なんて、きっととんでもなく理想が高くなっているに違いない。
「ていうか、太ってもいいんじゃない」
赤葦がぼそりという。
「俺もそー思う!!なまえちゃん、太ったほうがいーんじゃね!?」
「だろ?俺もずっと言ってんのよ、女はちょっとくらいムチムチしてたほうがいいって」
木兎と黒尾が肉を豪快に頬張りながら続いた。
『でも、努力しないと太っちゃうから。周り細い子多いし。それに細い方が女の子は綺麗に見えるじゃん。だからいつもダイエット頑張らなきゃって思う』
少し悲しそうに、フォークで野菜を突っつきながらなまえは言う。
そんななまえを横目に、赤葦が口を開いた。
「周りがどうだろうが、関係ないんじゃないスか。みょうじの魅力は、体系だけじゃないでしょ。細いだけの人ならたくさんいるんだから。そんな気にすることないんじゃない」
さらり、とそう言いのけた赤葦の一言に、黒尾と木兎が「おお!」と続く。
「赤葦かっけーなオイ!」
「だってよ、なまえ!よかったなぁ!」
ツッコむ木兎の横で、黒尾がにたり顔でなまえを見つめる。なまえの顔は心無しか赤い気がした。横目でそれを見ていた月島の胸は、何故かちくりと痛んだ。