第2章 太陽と月の出
そして、翌日。
早朝から練習が始まり、正午を回った頃。
「「「みなさーん。森然高校の父兄の方から西瓜の差し入れでーす!」」」
女子マネたちが声を掛け、一同は休憩に入った。
「ほい、ごちそうさん」
『あれ、クロ、もう食べないの?』
「おー、俺ちょっと澤村んとこ行ってくるわ」
黒尾の返事に、なまえは昨日のことだろうな、と察した。
「あー…もしなまえチャンがよかったら、メガネ君のとこ…行ってもいーんだよ?」
黒尾は、なまえに頼みごとをするとき必ず名前の語尾にわざとらしく”ちゃん”をつける。これは幼い頃からの癖(?)である。
『はいはい。世話のかかる主将』
そうは言いながらも、元々そうする予定でいたなまえは、西瓜の乗った皿を片手に、月島の姿を探した。
「あれ…月島君、一切れだけでいいの?」
谷地が、行こうとする月島の背中に問うた。
「うん。ゴチソウサマデシタ」
皆が賑やかに西瓜を頬張る横で、月島は一人すたすたと体育館へ戻ろうと歩いていく。
『――月島くん!』
後ろから掛かった聞き慣れない声に、月島は立ち止まり振り返った。
そこには、西瓜が二切れ乗ったお皿を片手に、淡い栗色の髪をポニーテールに結ったなまえの姿があった。タイトで短めな黒のTシャツからは細いウエストがちらりとのぞいていて、華奢なのに高校生らしくない胸の膨らみがよくわかる仕様だ。音駒の連中は、意図してこの服を作ったのだろうか、と思わずにはいられない作りである。そんな彼女を見下ろしながら、月島は眉を寄せ口を開いた。
「音駒のマネージャーさんが僕に何の用ですか?」
『急にごめんね。昨日は、自主練に付き合ってくれてありがとう』
そういってなまえは、笑顔で片方の西瓜を月島に渡した。
先ほど、谷地にもう西瓜はいらないと断ったばかりなのに。こうも笑顔で差し出されてしまっては断れない。月島は、内心嫌々ながらも西瓜をそっと受け取った。
「…どうも」