第7章 36℃
キーンコーンカーンコーンと、午前の授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。
梟谷高校は購買と食堂が割と充実しているので、昼食は基本的に購買でパンを買うか、食堂で済ませる。バレー部の先輩方と食べる事が多いけれど、今日はクラスの友人達に誘われたので、彼らと食堂へ行く事にした。
「なぁなぁ赤葦、2組の鳥崎って知ってる?」
黙々と定食を食べていれば、向かいに座っているクラスメイトに突然聞かれた。赤葦はごくり、とご飯を飲み込んでから、無表情で答えた。
「いや、知らないけど」
「あの、ショートでさ、巨乳の!知らねーの!?」
「全く」
自分のクラスの女子ですら全員把握できていないのに、他のクラスの女子まで知っているわけがない。当然のように答えれば、クラスメイトは驚いたように目を見開いたまま、続けた。
「テニス部のエースなんだぜ!有名だよ!あ、ほら、あそこ!あの角にいる子!」
そういって彼は赤葦の肩を叩き、後ろの方の席を指差して見せた。面倒だなと思いながらも振り返れば、角に座っているショートカットの女の子と、目が合った。
「あの子だよ!な、可愛いだろ?」
「ああ、うん、俺はあんまりわからないけど」
「マジかよ赤葦…」
「お前本当に男か」
何故か周りの友人達にもドン引きされた。
確かに、一般的に見たら可愛いのかもしれない。
――けれど。赤葦にとって、可愛いという言葉が当てはまるのは、たった一人しかいないのだ。
あーだこーだとがやがや言われながらも黙々と定食を食べ勧めていれば、突然、一緒に食事をしていたクラスメイト達の声が聞こえなくなった。どうしたものかと顔をあげてみれば、そこには、先ほど皆が話していた鳥崎という女子が立っていた。